もちゃ
引用元:https://nondesu.jp/25078/
それは2025年2月の終わりに突然もたらされました。いや、今までも似たような情報が出るたびに“のんさん推し”としては恥ずかしながら毎回踊らされていました。ただ、今回はなんとなく実現しそうなので、浮足立ったまま原稿を書いています。
ある女性誌によると25年4月スタートのTBS日曜劇場「キャスター」に重要な役で出演、とのことでした。主演の阿部寛さんとは2008年の映画「カラスの親指」以来でそれだけでも胸熱。実現すれば、注目度の高い放送枠なので今年の大きな話題になりそうです。
では、なぜこうものんさんの民放地上波ドラマ出演が注目されるのかをひも解いていきましょう。
ブレイクまでの道のり
引用元:https://ameblo.jp/200085/entry-11558140729.html
のんさんは1993年兵庫県出身で、学生時代から新垣結衣さんやダンディ坂野さんにあこがれエレキギター教室にも通う根っからのエンターテイナー気質でした。この頃は「将来はお笑い芸人」の選択肢もあったそうです。やがて2006年ティーンエイジャー向けファション雑誌「ニコラ」のオーディションでグランプリを獲得し本名の能年玲奈で活動を始めます。この時まだ弱冠13歳。
その後女優に転身し2010年松たか子さん主演の映画「告白」で女優デビュー。クラスメートの1人を演じました。この映画では中学生役として当時14歳から15歳の子役が選ばれましたが、中島哲也監督は2歳年上ののんさんだけ「能年はそのままでいい」と言ったそう。ちなみにこの映画で後の「潮騒のメモリーズ」橋本愛さんと初共演しています。その後数々の映画やドラマに出演を果たしますが2012年春、嵐の大野智さん主演ドラマ「鍵のかかった部屋」にて月9レギュラーの座を得、さらにそのスピンオフミニドラマでは主演に抜擢されます。
そして2013年、NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」で1,953人のオーディションを勝ち抜きヒロインを獲得。宮藤官九郎さん脚本のドラマはこの年の社会現象となり、のんさんは東京ドラマアウォード主演女優賞受賞、新語流行語大賞年間大賞はドラマのセリフ「じぇじぇじぇ」が受賞。この年の第64回紅白歌合戦ではドラマの主人公「天野アキ」として出演しドラマの企画ステージが設けられるなど旋風を巻き起こしました。
所属事務所との軋轢、そして独立
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「あまちゃん」でのブレイク後は様々なオファーが殺到したそうですが、なぜか所属事務所の出し惜しみともとれる戦略ミスのため、2本の映画出演と1本の単発ドラマ、数本のCM以外は次第に露出が減っていきました。この頃に所属事務所との軋轢も報道されはじめましたが、詳細は憶測記事によるものも多いためここでは触れないこととします。
視聴者の期待だけが膨らみ続けるものの新たな活動はなく、伝えられる情報は本人によるブログで日常が少し垣間見えるのみ。後から知ったことですが、この頃に「シン・ゴジラ」の樋口真嗣監督が自作「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」のミカサ・アッカーマン役をオファーし原作ファンののんさんもとても楽しみにしていたそうですが、所属事務所が断ってしまったそうです。ただのんさんはこの時に出来た樋口監督との縁をその後劇的に回収するのですが、それはまた後ほど。
所属事務所とのトラブルから芸能界からほぼ干された状態が2年ほど続き、この時期がのんさんや彼女のファンにとってとても辛い時期でした。2016年ようやく契約期間満了のタイミングをもって更新をせず独立。所属事務所側は制裁も込めて本名でもある「『能年玲奈』の使用権は旧所属事務所に帰属」という契約の締結を踏み絵にしました。しかしのんさんはあっさりと本名の「能年玲奈」を名乗らないことを選択。女優「のん」の誕生です。
この時、宮藤官九郎さんは雑誌のエッセイで「思い切ったなあ。渡辺えりさんは『えり子』の『子』を取るように美輪明宏さんに諭され随分悩まれたと聞きますが、彼女は『のうねんれな』の『うねれな』を取ったわけですから大手術」とあまりに大胆な決断を称え、「あとは旧名時代を凌駕する代表作に巡り会えれば一気に浸透するんじゃないでしょうか。道のりは険しいでしょうが、のんさんの代表作が早く生まれるといいなと思います」と、多くのメディアが旧所属事務所に忖度して全く報じない中で新たな活動にエールを送っていました。
大攻勢のはじまり
完全に息の根を止めようとした旧所属事務所の思惑通りにこのまま芸能界からフェードアウトするかにみえたのんさんですが、大方の予測を裏切りここから大攻勢が始まります。のんさんは独立後すぐに「あまちゃん」で応援してくれた岩手県を表敬訪問、達増拓也知事はそれを受けて早速「プロジェクトN」なる企画の立ち上げを宣言しました。岩手銀行やJA全農岩手など地元の経済界をも巻き込んだ県による壮大な推し活は、なんと2025年現在も続いています。
そして女優「のん」としての最初の大きな仕事が舞い込みます。戦中戦後の広島を舞台に市井の人々を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」の主人公北條すず役です。この映画の片渕須直監督は映画制作をはじめた頃に見た「あまちゃん」で強烈なインスピレーションを感じ出演を熱望、丁度いいタイミングで独立問題が一段落したのも功を奏しました。
いまや同じく戦争を扱ったアニメ映画の傑作「火垂るの墓」と双璧を成すと評価されている「この世界の片隅に」ですが、その制作は資金集めから苦労したといわれており、クラウドファンディング等を駆使し話題を作るところからはじめられました。当初はたった63館での公開でスタートしましたが、やがて多くの評論家や著名人らの高い評価が伝えられるようになり、さらにはSNSで絶賛の声が拡散されはじめると作品の評価は次第に上昇。公開規模は徐々に拡大していき、最終的には興収27億円、アニメ映画史上最長の1133日連続上映を記録しました。映画自体の質の高さに加えのんさんの演技にたくさんの称賛の声が集まったこの作品はこの年の数々の賞を受賞、のんさん自身も第38回ヨコハマ映画祭審査員特別賞や第71回毎日映画コンクール女優主演賞など数々の受賞を果たしました。
多方面での活躍
また「あまちゃん」劇中でも歌は披露していましたが、翌2017年に自ら音楽レーベル「KAIWA (RE)CORD」を設立し本格的に音楽活動を開始。「出せぬなら作ってしまえホトトギス」―――。家康・信長・秀吉ばりに忍耐力・決断力・創造力をもって道なき道をばく進していきます。これらの動きにいち早く反応したのが音楽界の大物中の大物、YMOの高橋幸宏さん。早速自らがキュレーターを務める夏フェス「ワールド・ハピネス2017」に招待しステージをともにしました。その後もミュージシャンとして愛用のエレキギター“フェンダーテレキャスター”を片手にシングルやアルバム、EPをリリース。高橋幸宏さんをはじめ真島昌利さんや矢野顕子さん、「あまちゃん」の音楽を担当した大友良英さんら大物アーティストとも共演し、作詞作曲やライブをこなすなど精力的に活動しています。
2019年には監督業にも乗り出し映画「おちをつけなんせ」を初監督。脚本・主演・主題歌のほかスタッフの一員としてあらゆる作業を担当し、さらに2022年には2作目となる劇場公開長編初監督「Ribbon」を発表。数々の海外映画祭に出品されました。「Ribbon」は世界中で猛威を振るった新型コロナウイルス禍で逼塞していくエンターテイメント業界のさなかに制作され、真正面からコロナ禍における表現者をテーマとして捉え同時代を描いた世界的にも珍しい作品です。
女優として復帰
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本業の女優業では2019年に新たなシーンを加えた「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」で再び主人公を演じ、翌年はヒロインを演じた「星屑の街」でスクリーン復帰。新型コロナウイルス禍での外出自粛要請中にリモートで撮影された「8日で死んだ怪獣の12日の物語―劇場版―」に出演後は「私をくいとめて」(2020年)「さかなのこ」「天間荘の三姉妹」(2022年)「私にふさわしいホテル」(2024)と次々に主演映画が公開され、「さかなのこ」でのアカデミー賞優秀女優賞をはじめ様々な賞に輝きました。
このほかにも舞台や朗読、WEBドラマ、ミュージックビデオ出演、SNS配信など、旧所属事務所の圧力が及びにくい場所や人々を巧みに選び、隙をついて活動の幅を広げていく戦略が奏功。いまや活動を通じてファンになった俳優やミュージシャン、映画監督、その他芸能界で働く多くの方たちが垣根やしがらみを越えてのんさんを支援しています。しかしながら依然として旧所属事務所への忖度が強い民放地上波では、深夜番組の1コーナーやアカデミー賞授賞式の数分以外ではあまり取り上げられることはありませんでした。
そして時代の変わり目が
そしてここにきて時代の変わり目の予感。大手芸能事務所のドンといわれた方たちの死去や引退、闇営業問題に端を発する芸能界の書面を介さない曖昧な商習慣の露呈、公正取引委員会の元SMAPメンバー3人に対する圧力への注意、それに伴う国会議員によるのんさんへの言及、ジャニーズ問題で明らかになったテレビ局の忖度問題、都知事選や兵庫県知事選におけるテレビ報道の影響力低下、元アイドル有名司会者による性加害問題及びテレビ局の不適切接待問題など、芸能界を取り巻くムラの掟が次第に大きく変化していきました。
さらなる飛躍を期待
2025年に入るとインターネットを中心に次々と活躍が伝えられるようになりました。主演したネット配信ドラマ「幸せカナコの殺し屋生活」はYouTubeで第1話が無料公開され、9日間で再生回数80万回以上を記録。コメント欄はのんさん“再発見”への賛辞であふれました。ネットでは「漫画作品の実写化史上最高傑作」との評価もうけ、全話配信したDMM TVの総合視聴ランキングでは1位を獲得。
また同じ頃に1975年に大ヒットした高倉健主演の映画「新幹線大爆破」のリブート作への出演が発表されました。監督はかつて「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」へのオファーが叶わなかった樋口真嗣監督。樋口監督とはその後「8日で死んだ怪獣の12日の物語―劇場版―」での共演で再会を果たし、今度はのんさんが自作「Ribbon」でリボンが空間を漂うシーンの特撮監督として起用。さらに多数の映画監督たちがまるでのんさん応援団のように出演した「Ribbon」の応援PVをのんさん主演で樋口監督が担当するなど、もはや相思相愛状態。そして今回10年の時を経てようやく樋口作品への出演が叶いました。かつて樋口監督の古くからの友人でもある評論家の岡田斗司夫さんは、のんさん主演映画での演技を最大限評価しつつ「(主役ばかりなのが)最大の欠点」「ちょっと将来心配」と語っていましたが、「新幹線大爆破」や先に公開された橋本愛主演の映画「早乙女カナコの場合は」では助演での出演で、岡田氏が指摘した「最大の欠点」もどうやら克服できそうです。そのような状況のなかで冒頭の「地上波ドラマ完全復帰」報道がなされました。もしこの報道が事実であれば、彼女のとても長かった戦いに一つの区切りがついたといえるかもしれません。
結びにかえて
かつてのんさんを一躍有名にした「あまちゃん」の主人公天野アキは、地方で海女として暮らし始めたのちにアイドルを目指し上京するも、大手芸能事務所から圧力をうけ干されて独立、東日本大震災を機に地方から再びアイドルを目指し、人と人を結びつけながら地方の再生を願う姿が描かれていました。こうやってのんさん自身の経歴を追ってみると、まるで天野アキそのものを見ているよう。「あまちゃん」でのんさんに出会った筆者は、のんさんのこれからをまるで幻の「あまちゃんSeason2」を鑑賞しているかのように追っていきたいと思います。
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