「自由学園明日館」
画像引用元:https://jiyu.jp/
「簡素ななかに優れた思いを」
1921年(大正10年)帝国ホテル新館設計のため日本に滞在していたライトのもとに学校建築の話が舞い込んできました。依頼主は日本初の女性ジャーナリストとして活躍し教育者でもあった羽仁もと子・吉一夫妻。二人はこの年に全く新しい理念に基づいた学校「自由学園」を設立したばかりでした。もともと教育熱心な母親の元で育ったライトにとって、夫妻が提唱する教育理念はとても心に響いたそうです。そして開校はこの設計依頼のなんと3カ月後。ライトは帝国ホテル新館設計のかたわら「簡素な外形のなかに優れた思いを充たしめたい」と語る夫妻の願いを設計基調として、急いで計画をまとめたそうです。
「海を越えた師弟愛」
「遠藤新」
画像引用元:https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%81%A0%E8%97%A4%E6%96%B0
ライトには何人かの弟子がいますが、なかでも遠藤新(あらた)はライトが最も信頼を寄せ愛した弟子と言われています。遠藤自身も多くの弟子がライトの強烈なデザインセンスを呪縛と感じ脱却に苦しむなか、その強烈さこそを愛し、さらにライト自身の思考をも自らに写し取らんとする、まるで日本の伝統芸能における師弟のような関係だったと言えるかもしれません。実はこの遠藤新の存在こそが、日本で数棟のライト建築が実現した成功の鍵だったのです。羽仁夫妻とライトを引き合わせたのも彼でした。
帝国ホテル新館建設で忙しいライトが取りまとめた基本設計をもとに遠藤新が現場を取り仕切り、開校には少し間に合わなかったものの1922年(大正11年)自由学園校舎のライト設計部分は完成しました。
「日本版プレーリースタイルの決定版」
画像引用元:https://www.jiyu.ac.jp/related/myonichikan.php
縦のスリット状窓が切妻屋根にまで貫く独特な中央棟と左右に広がる教室棟の平面構成は、ここでも日本の伝統的建築からのインスパイアが指摘されており、ライトがその土地の歴史や環境に応じたデザインを常に心がけていたことが伺い知れます。各棟は軒高を抑え水平線を強調したライト独自のプレーリースタイル。窓枠や照明器具、家具・調度品に至るまで統制されたデザイン、あえて狭くした動線や様々に変化する天井高で劇的に演出される広い空間演出、印象的に採り入れられる自然光、随所にみられる美しい幾何学模様。それらすべてが木と石と漆喰のぬくもりで包まれているため、全体からはそれら細部の華やかさから相反する「簡素さ」が醸し出されています。それこそ夫妻の望んだものでした。
「高弟が完成させた統一された美」
「ライトと生徒達」
画像引用元:https://www.jiyu.ac.jp/related/myonichikan.php
校舎が完成したこの年、ライトは帝国ホテル新館建設にいそしんでいましたが予算オーバーと工期の遅れで経営陣と対立し解任。日本で設計した作品の半分は帝国ホテル新館を含め完成に立ち会うことなく離日を余儀なくされました。しかし自由学園校舎は完成に立ち会えており、新たな校舎を背に生徒達と写真に収まるライトが残されています。
「講堂」
画像引用元:https://jiyu.jp/
現在国の重要文化財に指定されている土地を含む4棟のうち、ライトが設計したものは中央棟と西教室棟で、生徒数の増加で増築された東教室棟と講堂は遠藤新が担当、それぞれ1925年(大正14年)と1927年(昭和2年)に完成しました。ここで遠藤新はデザインに統一感を持たせる「様式の追随」で増築部分を彩り師の思いに報いています。
その後自由学園は生徒数の急激な増加もあり、1934年(昭和9年)東久留米市に移転しました。移転先の校舎設計も遠藤新が担当しており、やがて息子の遠藤楽も加わっています。自由学園は現在までつながるライトの遺伝子が記憶された、世界的にも貴重な遺産といえるかもしれません。
ライトと遠藤新による自由学園校舎はその後「明日館」と名付けられ、食堂での喫茶付き見学のほか結婚式やクラス会などの多目的な貸し出しが行われており「重要文化財の活用しながらの保存」の先駆けといわれています。広々とした芝生に映える美しい建築群は、ライトが提唱した「有機的建築」の精神が文化財となった今でもここで生きていることを伝えてくれます。
(文中敬称略)
- 自由学園明日館
〒171-0021 東京都豊島区西池袋2-31-3
通常見学 10:00〜16:00 (15:30までの入館)
夜間見学日 毎月第3金曜日 18:00〜21:00(20:30までの入館)
休日見学日 10:00〜17:00(16:30までの入館)
月1日程度の指定日のみ
休館日 毎週月曜(月曜が祝日または振替休日の場合はその翌日) 年末年始
(情報は2025年現在です。詳細は施設にお問い合わせ下さい)
コメント